くむーる&ぬむるす欧州旅行記


(4日目)
6月20日

 やっぱり小雨が降っている。通常この時期のストックホルムは気候が安定しているそうだが、今年はハズレのようである。
 いつものように朝食をとる。周りの客をみて、どうもチーズとパプリカやズッキーニ(野菜は昨日から出るようになったがこの二種類だけ)はパンを半分に割ってオープンサンドにして食べるのだと知る。いつも腹十二分目に食べて苦しい思いをするので(^_^;)少なめにしたつもりだが、コーヒーをおかわりして結局同じだった。
 今日はももが好きな建築家、アスプルンドが設計した市立図書館と森の火葬場&礼拝堂を見学する予定。地図でみると図書館は地下鉄ロドマンスガータン(RADMANSGATAN)から近いことが判明。ストックホルム大学の一角に建っている。

 アスプルンド(ASPLUND、Gunnar)は昨日見学した市庁舎の設計者エストベリとともにスウェーデンの現代建築の貢献した建築家。専門学校時代「図書館」という課題のために資料を集めていたときに初めて知ったくらいで、日本では余り有名な建築家とはいえないだろう。
 とにかく「市立図書館」のインパクトが凄かった。関西の人ならもしかしたら見たことあるかも知れないが、宝塚市役所を思い浮かべれば簡単。(今はどうでしょうか?)正方体に円筒をのっけたような、あの形。実はこいつのモデルがストックホルムにひっそり建っていたのだ。
 実際は、円筒をコの字型にとりかこんだプラン。円筒は内部もそのまま、壁にびっしりと本が並ぶ。回りの四角の部分が閲覧室や研究室などにあてられている。アメリカで公共図書館の動線処理を研究した結果生まれた単純かつ明快なフォルム。 道路から階段を徐々に昇って、その前に堂々と構える大理石の入り口、向こうには計算し尽くされた位置に天井から吊られた巨大なランプシェード・・・。

市立図書館。結構可愛い外観。

市立図書館

 その夢を壊すがごとく入口に張られた紙には「本日・休館」

(T_T) (T_T) (T_T) (T^T) (T^T) (T^T) (ToT) (ToT) (ToT) (ToT)

 これが怖くてわざわざ永田町まで行って下調べしたのにスカンジナビア観光局のおねーちゃんのウソツキーーーーッッッ!!!!月曜以外は開いてるって言ったじゃないかーーーーーーっ(この日は土曜日)

うおおおおおぉぉぉおおうおうおうぉぅぉぅううぅ

 よくよく見ると今週は夏至祭もあるので19日から3日間休み。普段でも土日はやはり休みのようだ。メロトロネン訪問を蹴って行かなければ見れなかったのね(;_;)。
 しょうがないので外観だけ見て回ることにする。マーブル模様のランプシェードと開放書庫がドアから覗いて見える。悲しいけどガラス越しに写真を撮った。近くの公園では、(多分ドラッグで)トリップしたオッサンやにいちゃんが時々寄声を挙げている。そういえば駅にはホームレスっぽい人もいた。福祉が進んだ国だという認識があったのでその存在自体が意外で驚いた。なんだか心がすさんだせいか街もすさんでみえる。
 とんだことで時間があり余ってしまった。気を取り直して予定にはなかった本当の観光名所、ガムラ・スタンの王宮の衛兵交替式を見に行くことにする。


 お馴染みガムラ・スタン駅で降りてメロトロネンがある区画からさらに奥へ適当に歩いていくと広場に出た。ベンチでは団体観光客が揃って写生をしている。どうやら証券取引所の前の大広場(STORTORGET)に出たらしい。更に歩いていくと巨大な建物が・・・。凄い!しかし旧市街にある割にきれいだなぁ、と思ったら改装工事をしているらしい。石積みの力強さと窓を華麗に彩る彫刻の美しさに思わずため息。これが、王宮だ。
 ももは交替式が土曜(つまり平日)だから12時に始まるものと思いこんでいたのだが、しぶが「今日は夏至祭もあるし祝日だから1時だろう」と言う。険悪なムードが流れる。どちらにしろ時間があるので王宮内を見学(30SEK)することにした、が、これも12時になってからとのこと。とりあえず無料で中には入れる宝物館の入り口だけウロウロ見る。大理石だらけである。たしかにゴージャスであるが、ヨーロッパでは身近にある丈夫な建材だ、ということも知っておこう。
 一応12時近くになり、交替式の舞台となる王宮西側の外庭に行くが、人も集まっていないし、準備をしてるとかその気配はまったくナシ。ももの間違いm(__)m。
 風が吹いてきた。すぐ湖が望める位置にあるので、風が冷たい。今日は雨が降ったり陽が差したり忙しい。近くのカフェに避難する。

変なお菓子

 本当に街の喫茶店、という素朴な感じのお店。セルフサービス式で奥のレジでケーキやパンを頼み、コーヒーが飲みたいときはカップだけ貰い、自分でサーバーから注ぐ。
 しぶが宇宙人のような、得体の知れないケーキを買ってきた。見た目はカビのようで不気味だったが味は◎。生クリームは甘過ぎず、黴の様に見えたカシスの酸味がきいててなかなかのものだった。

やっぱりすごい色だ(汗)

 カフェの近くでは大道芸人達がフォーク・ミュージックを演奏し始めた。その中の一人がまるでコントラバスのようなバラライカを演奏していて、道行く人たちの注目を集めていた。勿論うちらもカメラをパチリ。

 もう一度外庭へ行くとロープが張られていた。場所取りをする人たちもチラホラいる。しぶはともかく背が高いとはいえないももは最前列にいないと見えないので(^^;)場所を確保した。男性のほとんどがしぶの身長と変わらない国(*1)なんだもの(^_^;)。あと15分くらいで始まるはずだが、心配していた雨がまた降り始めてきた。

 1時を過ぎて、遠くからブラスバンドの音が風にのって聞こえてくるが、姿を現さない。最初音出しでもしてるのかと思っていたのだが、後でガイドブックを見ると衛兵と一緒に街を行進していたらしい。
 銃をもった衛兵、仲々立派なブラスバンド、そしてお偉いさん数人が入場してきて、衛兵交替式が始まった。衛兵たちの銃の扱いや複雑な手のゼスチャーにどんな意味があるのかまったく分からないが、自衛隊とはまた違う、国王一家を守るプライドの高さがバシバシ伝わってきた。衛兵が「まわれ右」をするとき、必ず片足を後ろに残す、一見妙な姿勢を取るのはきっと、本当に後ろに敵がいたときに次のアクションがとり易いよう体重を移動するためだ。
 また、ブラス・バンドがジャズなども取り入れた素晴らしい演奏を聞かせてくれた。雨も本降りになってきてさぞ辛いだろうが、見てるほうも寒い。行進曲というと面白がって金管楽器などバリバリ吹いてしまうものだが(^^;)、さすがプロで、ホルンやバリトン(チューバを二周り小さくしたような楽器。音域はトロンボーンと同じ)の柔らかい音には本当に感心してしまった。このバンドだけでも見る価値あり!タダだしね(^^;)

大道芸人とブラスバンドの写真はここをクリック

 バンドを見終わった後、ガムラ・スタン駅へ一旦行ったが、ももがトイレに行きたくなった為、一昨日行ったカフェで雨で冷えた体を暖めつつトイレも借りようと思ったら・・・閉まってる(T_T)。王宮周辺は観光客用にお店も開いていたが一般の商店は土日は閉めてしまう。歩き回ってようやく1軒開いてる店を見つける。日本でいうとドトールみたいなチェーン店のようだ。いままで入ったカフェではBGMなど「流れていなかった」のだが、ここはラジオがガンガンかかってるし店員のねーちゃんもなんか怖いぞ。

 コーヒーとミートパイでまたお腹がいっぱいになったところで、今度はもものスウェーデン最大の目玉、森の火葬場&礼拝堂へ向かう。地下鉄でさらに南下してストックホルム市外へ。メーラレン湖を渡ってしまうと、開発途上で醜く赤土を晒した土地や、逆に箱庭に置いたような可愛い家があったり、今いるストックホルムのホテル周辺は表向きの顔にすぎないことを思う。人口密度以外は日本と大して変わらないのかもしれない。ポーッと窓の外をみていると墓石を並べた家がチラホラ見えだした。そろそろ「森林火葬場前」駅だ。
 降りたとたん、花屋である。墓前に添える花だが、日本は切り花、ここは鉢植え。墓石の回りに植えてしまうのである。街全体が死者のために創られたかのような静けさ。駅から続く街路樹のアーチが途切れ、右に曲がると広々とした草原が見えた。ここが森の火葬場だ。

 森の火葬場(SKOGKYRKOGARDEN)はアスプルンドの建築家人生の大体を占めた作品で(1915-1940)25年もかかって完成した代表作。本で見たときは「こんなそっけないプラン(まるでゴルフ場のよう)で、どこが傑作かいまいちわからん」というのが正直な感想だった、が。私も研究者ではないので難しいことは書けないが、彼が「環境」を創り出す天才だったということを身をもって確認した。

 建物と違って説明がしづらいので本の説明を引用する。

 
 「・・・入り口から軸上、はるか400m余り先の丘に黒い十字架をアイ・スト
   ップにして並木道を100m近く歩くと急に視界が開け、砂利採集場跡地を
   利用したなだらかな芝生の登り斜面となる。斜面の左手の舗石された小
   路、低い壁が人々を誘い込む。この低い壁は300m余り、確固とした方向
   性を持って斜面を延びる。丘の頂きの柱廊が、その低い壁を力強く受け
   とめる。黒い十字架はチャペルのすぐ右手に建ち、低い壁と柱廊に対し
   て見事にバランスをとる。」
(鹿島出版会/現代の建築家・アスプルンド)


 このクルクル表情を変えるスウェーデンの空の下、取り囲む木々の中、なんの装飾が必要であろうか。私はもちろん、付き合いで来たはずのしぶも「これは凄い」と息を飲んだ。

森の火葬場2 私はここに涅槃を見た。

他の写真はここをクリック

 柱廊を抜けさらに奥へすすみ、左手にある小さな切り妻の門をくぐる。その森の中には死者を火葬する施設とチャペルがある。動線がどうこうという話はもうおいといて(^_^;)ワタシモツカレタ)、チャペルの入り口の鍵穴を飾るドクロの細工が壊れたのか外されていて、跡だけ残っていたのがちょっと悲しかった。中は見られなかった。

 他の国は知らないが、ここの墓地では墓石は平たい石が浅く埋まっているものとケルト十字の2種類が見られた。そっけない。沖縄には(むんちゅう)という制度があって、長男だけがこの巨大な墓(広いと6帖もある!?)に入る。長男が死ぬ度新しく作るので沖縄はそのうち墓だらけになる、などタクシーの運ちゃんが冗談をかましていたが、それに比べれば実に慎ましい。楚々としている。ここが、死者の「名札」でしかない墓石に対して、日本の墓石はまるで死者が甦ってこないように重しをしているようだ。
 うまくいえないけど、はっきり西洋人と東洋人の根本の違いを見せつけられたようで、色々考えてしまった。それだけでも来て良かった。

 スウェーデンに来てから生死観を考えさせられたというのは、破滅する神々を持つ国だからか?

明日はベルギーへ移動。


(*1)男性のほとんどがしぶの身長と変わらない国
  しぶの身長は181センチ。ももは158センチ。

日本 ストックホルム ブリュッセル
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