くむーる&ぬむるす満腹夢劇場



(3日目)
1月13日(日)
続き

 6時を少し過ぎて、電話が鳴った。チュルさんたちがホテルのフロントに到着したらしい。急いで身支度をし、お土産を持ってフロントのある2階へ下りた。ドモドモ、アンニョンハセヨ、お久しぶりです。挨拶をしてすぐにホテルを出て、タクシーを捕まえた。景福宮の北東エリア・三清洞(サンチョンドン)へ向かっているらしい。チュルさんいわく、下北沢のようなところ、だそうだ。
 「日本語を話すのは2年ぶりです」とチュルさんは言うが、殆ど問題なく会話が出来る。その上、チュルさんと彼女、ヤンアさんの会話をShibuは少し理解していて、話を合わせることが出来る。なんか羨ましいなぁ。10分くらい走っただろうか、古い民家の前でタクシーを降りた。通り沿いには、明洞とは全然違う、落ち着いた雰囲気の店が並んでいる。下北沢と言うよりは、表参道や青山に近い感じ。通りの右側は山の斜面を活かしたまま建物がぎっしりと建ち並んでいるので、お店に入るために狭い階段を上っていかなければいけなくて、それがちょっとした迷路のようで面白い。夕飯の時間まで「Cafe Yeon」というカフェで時間を潰すことになった。
 古民家を活かした店舗。中庭の縁台で靴を脱ぎ、オンドルの床に座布団を敷いてくつろぐ。壁に「No music, No Life. No travel, No life」と書かれていて、旅行に関する本がずらっと並んでいた。店長らしき男性はヒッピーっぽい容貌。それぞれ自己紹介をして、ダラダラと雑談。チュルさんやヤンアさんのほうが、日本のマンガや映画をよっぽど知っていて、何かタイトルが言われると、「あー、知っていますが見たことありません。」と答える我ら日本人。あと、私たち二人ともケータイを持っていないと言うとウケていた。でもチュルさんたちのお宅にはTVがないそうだ。「必要ないから持たない」という感覚は、とても良く分かる。
 Shibuがコレクションしている
N.EX.TのVo./key.のShin HaeChulのCDをチュルさんから受け取った時、彼は韓国ではビミョーなキャラの芸能人扱いをされていることを知った(^_^;)。ヤンアさんも「えー!?あの人ー?」ってな表情だ。チュルさんの「彼は男性に嫌われるタイプです」とのコメントで想像すると、Gacktみたいなキャラなのかと想像する(ファンの皆さんゴメン)。

 8時を回ったので、徒歩で移動。「三清洞スジェビ」という大衆食堂に入った。後々調べたら、私たちが持っていったガイドブックにも載っていたお店で、「日本語が通じる」と書かれていたが、この時はそんな雰囲気はなかった。勿論メニューはハングルのみ。チュルさんとヤンアさんが適当に見繕って注文してくれた。韓国の濁り酒マッコリの上澄みだけを摂ったお酒、トンドンジュで乾杯(コンベ)!瓶からおたまで注ぐのが可愛い。そして店名にもなっているスジェビ(すいとん)とチヂミ、キムチが2種類。うーん、スジェビうまいぞ。海鮮系のダシとすいとん(日本のと同じ)は、日本人に親しみやすい料理だと思う。トンドンジュは酸味の好き嫌いがありそうだが、割と飲みやすくて、飲み過ぎてしまいそうで怖い。私よりお酒好きっぽいヨンアさんを中心にクイクイいってしまい、あっというまに酒瓶が空になってしまった。追加を頼もうとすると、もうオーダーストップだという。お店は材料がなくなるとさっさと店じまいをしてしまうそうで、あんまり儲ける気がないらしい。最近TVにも紹介されて有名になったとかで、「そう言うのを殿様商売って言うんですよ」とShibuはチュルさんに教えていた。(^_^;)
 この時話していたので面白かったのは、韓国語で犬とカニをどう言い分けるのか?と言う話。カタカナで書くと、どちらも「
」になる。韓国人にはこの二つをちゃんと言い分けているそうで、チュルさんに発音してもらったところ、私たちにはどちらも同じ「」にしか聞こえなかった(^_^;)。それから犬鍋の話になった。昔はポピュラーだったけれど、現在はそれほど犬肉を食べさせる店は多くないし、若い人もそれ程好んで食べる人は居ない、とのこと。あと、食用に飼育されている犬がいて、ペットを食べるようなことはしない、とも言っていた。(この話題は、日本人的には『鯨』に近いかもね、と後でShibuと話した。)

 飲み足りない!ということで店を変えることになった。「何を食べたいですか?」と聞かれたので「豆腐。トゥブ。」と私が答えると、二人とも微妙な表情をしていた気がする。韓国まで来て豆腐を食べなくてもって感じだろうか。とりあえずタクシーを捕まえて、仁寺洞へ移動した。昼間に寄ったサムジギルの横の路地にある、古民家風のちょっと洒落た飲み屋に入り、焼き豆腐(キムチ添え)とクランベリーのワインを注文。Shibuがトイレに言っている間、私は昨日から抱いていたトイレについての疑問について、チュルさん達に聞いてみた。食事前に何てことを(^_^;)。チュルさんもヨンアさんもよく分からないらしいが、OKなトイレとそうではないトイレの違いは、「設備の性能の問題だろう」と言う話だった。配管が細いんだろうか?浄化槽の性能だろうか?元建築の仕事をしていた人間としては、どうでも良いところだけどとても気になるところである。
 そのあと、映画「かもめ食堂」の話になった。アニメの歌がきっかけで、見知らぬ人同士が友達になる、というシーンがあるらしく、それがShibuとチュルさん達みたいだ、という流れだったのかな。そのアニメというのが「韓国では『はげわし』というのですが」と言われ、アニメで鷲?大きい鳥?・・・・あ!ガッチャマン?!「♪誰だ?誰だ?誰だー?ですね」と私がちょっと歌うと、ヨンアさんも「あーそれそれ!」と大いに反応して同じように歌う。韓国語は文頭の濁音が濁らないので「♪たれだ?たれだ?たれだー?」になってしまうのだが、それがとってもキュートだった。きっと「かもめ食堂」でもこんな感じだったんだろうな〜。

 不意にShibuが「今日実はももの誕生日なんです」というと、「では、ウチに来てケーキを買ってお祝いしましょう!」とチュルさんが言い出した。それから「誕生日には、日本では何を食べますか?」と聞かれて、「ケーキを食べます。他は…今はあまりないけれど、赤飯かなぁ。」と答えた。韓国ではワカメスープを食べる決まりになっているそうだ。元々妊婦さんの滋養食が、子供の誕生→誕生日に転じた習慣らしい。トゥブをつまみつつワインを飲んでいたが、あっとゆう間にワインなくなってしまい、ヨンアさん不満げ(^_^;)。なのでお店を出て、安国駅近くにあるお店でケーキとスパークリングワインを買い込み、タクシーで2人のお宅へ乗り込む急展開。わー韓国お宅訪問は初めてですよ!

 急な坂が続く住宅地の道の途中に立つ、一見雑居ビル風な建物。一階分全部を使うタイプのアパートで、床暖房完備、(多分)3DKのゆったりな間取り。本当にTVはなかった。部屋に入ってすぐCDラックが目に入るのはなんとなく親しみを感じる(笑)。早速ケーキに一本だけローソクを立てて(年齢分立てると、穴だらけだからね!)、チュルさんとヨンアさんがお祝いの歌を唱ってくれた。すごく嬉しい。歌はお馴染みの「Happy Birthday To You〜♪」だったけど、節回しが日本とちょっと違っていて興味深かった。韓国の方が変拍子気味。
   Happy Birth-day to-you-
(日)タンッタ タンタン ターター
(韓)タンタタン ターター
(画像下:ラブリーなムースケーキ。ちと甘め)

 大量のCDを目の前にしたマニア2人、話す話題は一気にディープな方向へ。私が良く知らない韓国のミュージシャンの話とか、その昔、短波放送でアルテミエフを聞いて感動(<Shibu)とか、韓国の「2112」のLPジャケットにはレッドスターがない(<悪魔を連想させるとかで、検閲に引っかかったそうだ)とか、良く分からない言語が書かれた作品はとりあえす買っておく(<チュル)とか。表だった世界情勢は混迷を深めるばかりだけど、マニアに国境はない。間違いない。
 チュルさんのLP棚を見ながら、その昔、「Roger Waters/The Pros And Cons Of Hitch Hiking」のジャケットの、女性のお尻の部分が黒く塗りつぶされていた、なんて話をした後、「Iskra/Allemansra:tt」(*1)なるアルバムを見つけた。

し&も:「これなんですか?」
チ:「よくわかりません、忘れました。聞いてみますか?」

 どっちがバンド名で、作品名なのかもわからない。試しに聞いてみることにした。スピーカーから流れてきたのはサイケに酔っぱらったインプロ。解説によると、素人や子供に楽器を持たせて演奏させてるらしい。

みんな:「う〜ん・・・」
チ:「ちょっと良くなってきました。うん、なかなかいいのではないでしょうか。」

 本当に、分からない言語の物は何でも良いらしいよ。

 その後バルト三国やロマ/ジプシーブラスの話に移り、チュルさんに「Goran Bregovic / Ederlezi」なるアルバムを聴かせてもらう。たしかロシアの作曲家で、サントラを多く手がけている。聴かせてもらったアルバムはベスト盤だったのだけど、「洗練されたタラフ」みたいな感じで面白かった。

 12時近くになり、明日は朝早いのでおいとますることに。アパートを出ると、タイミング良くタクシーが客を降ろしているところに出くわしたので、そのタクシーを捕まえて帰ることにした。たった3日間(実質2日)の滞在だったけれど、中身の濃い旅行になったのは、チュルさん達の協力があってこそだ。本当にありがとう。

 ホテルに戻って、宴の余韻に浸る暇もなくシャワーを浴びて、ベッドへ直行。なぜなら明日は4時半に起きなければ行けないからだ。


(*1)「Iskra/Allemansra:tt」
バンド名がIskra、アルバムタイトルがAllemansra:tt。これはIskraの2ndアルバム。バンド名はソ連の新聞名にちなんだもの。タイトルのAllemansra:tはスウェーデン(もしかしたら他の北欧諸国)の独特のルールで、人に迷惑を掛けない限りは、自然や環境はみんなの物、自由に満喫しよう、みたいな決まり)
(バンド)
http://www.progg.se/band.asp?ID=712&skiva=1890
(みんなの権利)
http://sw-kidoairaku.hp.infoseek.co.jp/sub53.htm



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