Kaipa/Roine Stolt

 北欧のイメージといったらどのようなものなのだろうか?感じ方は人それぞれだけど、私の場合、「ひんやりしているが澄みきった空気」「冬はとても寒いけど家の中は暖炉で暖かくなっており、そこに住む人達も人情味あふれる素朴で優しく、ゆっくりと時間が過ぎ去っていくのを春が来るまでじっと待っている」とまぁ、そんなイメージがある。Kaipaの音楽はまさにそれにぴったりの音である。
 Kaipaの初期3作はどれもそれぞれ味があって甲乙付け難い。Hans LundinとRoine Stoltとの名コンビと言うこともあって時折Camelを思い起こさせるかもしれない。しかしそれだけではない。Kaipaの音楽には、現在の喧騒な世の中にあって忘れてはならないような穏やかで優しい音がある。1stでは"Musiken ar Ljuset"。これにつきる。私はこの曲のVo.がとても好きだ。なんか希望が持てるというか勇気づけられるのである。この1曲で幸せになれる。ききようによってはこのスウェーデン語のやぼったいVo.に失笑する方もおられるだろう。しかし、この素朴さこそが彼らの魅力といっていい。大作が収録された2nd、コンパクトにまとめられているが1曲1曲のクオリティーが非常に高く、"Sen Repris"〜"Flytet"への展開が見事な3rdと、1stから順序にきいていくと良いと思う。
 Kaipaを離れたRoineの初めてのバンド作品「Fantasia」は悪くはないんです。でも努めて時代性に合わせている姿が痛々しいのです。明るい曲調が多いのですが、街角BGMになる一歩手前というのが残念です。よくきくと細かいところにRoine Stoltらしさが出ていているのですが、そう思ってしまうことから尚更惜しいと感じてしまいます。Hans Bruniussonが参加している曲はタイトで引き締まっているのですが、'79というディスコっぽいサウンドがチラホラしているんですよ。また、Fusionぽい部分もあったりして、なんか吹っ切れていない印象を受けてしまいます。ほんと、悪くないんですが、Roine Stoltの作品として飛び抜けているわけでもありません。Stoltのソロ「Behind The Wall」とEPの「Utopia」はABBAを彷彿させるPopsアルバムで、これはこれでとても魅力的だが、シンフォニック愛好家には無理には薦めない。
 しかし、最近リリースされた「Hydrophonia」は迷いが吹っ切れたような力強いシンフォニックが炸裂しており、リスナーをグイグイ引く込んでいくような大傑作アルバムである。

(しぶ)

詳しくはこちら:http://www.kaipa.info

☆Kaipa / same (CD Musea FGBG 4091.AR) '75
☆Kaipa / Inget nytt Under Solen (CD Musea FGBG 4098.AR) '76
☆Kaipa / Solo (CD Musea FGBG 4128.AR) '78
☆Kaipa / Sen Repris/Visa i Sommaren (Maxisingle Decca FM 44598) '78

☆Roine Stolt/Fantasia (CD MARQUEE MAR 9228) '79

☆Stolt / Behind The Wall (LP Eagle Records ELP 100-2) '85
☆Stolt / Utopia (EP Foxtrot Records FOX S-002) '90

☆Roine Stolt / Hydrophonia (CD Foxtrot Records FOX CD 019) '98

Sen Repris/Visa i Sommaren
('99年のRoineのサイン入り)

Stolt / Behind The Wall


☆Hans Lundin / Tales (Orat Records RAT 1) '84
 演奏やプロデュースなど全てHans Lundin一人で行ったソロ作。'80s中期の北欧の音源は試行錯誤作な印象が強く、なかなか注目されていないが、この作品はKey.の音色に時代を感じさせるもののところどころハッと思わせる冷ややかなサウンドが心地よく、真夏にぴったりである。ジャケットは北欧らしい素朴な絵が良いが、よく見るとちょっと怖いかも。(^^;
 なお、このLPはばばんこさんのご厚意によりいただきました。ありがとうございました。m(__)m

☆Kaipa / Notes from The Past (InsideOutMusic 6 93723 41982 4) '02
 Kaipa解散後20年の歳月を経て再び世に送り出した再出発の会心作。メンバーはHansとRoineの他はゲストとなっており、Vo.はRitualのPatrik Lundstrom、BassはThe Flower KingsJonas Reingold、Ds.はMats/MorganのMorgan Agrenである。また、録音の関係からもすっかり'70sではなく'90s〜'00sの音色であり、The Flower Kingsとかなり近い雰囲気を醸し出しているため、とまどってしまう古くからのファンがいるだろうが、何回かきいていけば慣れてくるのでご心配なく。よくきいてみるとThe Flower Kings同様ポジティヴで躍動感あふれる力強い作風に希望を見いだすことが出来るだろう。"Mirrors of Yesterday"におけるRitualのPatrik LundstromのVo.とHans LundinのKey.がひたすら心地よい。"Leaving The Horizon"におけるRoineのギター・トーンの美しさとここでもPatrikのVo.が光る。この"Leaving The Horizon"きけばきくほどハマり度は高く、後半にかけてのドリーミーなHansのKey.そして密かにMorganとJonasのリズム・プレイも素晴らしい。どこまでも高揚していくアレンジがたまらない。これは名曲中の名曲だ!"The Name Belongs to You"の後半のDs.が炸裂!凄い。ぎりぎりKaipaと言ってもいいかもしれないが、"Morganism"はやりすぎと思う。この曲だけはMats/Morganだね、曲名からしてそうだけど...好きですが。(笑) A Road in My Mind"でのAleenaが一服の清涼剤として花を添えている。

☆Kaipa / Keyholder (Belle Antique MAR 03841) '03
 正直なところ、前作1作だけの復活かと思っていたが、約1年半ぶりに新作が届けられた。参加メンバーは基本的に変化はなく前作をよりアップデイトした力作と言っていいだろう。
 "A Complex Work of Art"のテクニカルなイントロとドライヴ感溢れる展開、Roineのメロディアスなギターから突如テンポがゆったりになるところでAleenaのVo.が入る処でうっとり。AleenaのVo.がちょっと苦手な人がいるのは気持ち分かるが、私はとても気に入っている。間奏の暖かいHans LundinのKey.、Morgan Agrenの引き締まったDs.、歌うようなJonas Reingoldのベース、ロングトーンで泣きのギターが炸裂するRoineのギター。ひたすら心地良い。
 "Across The Big Uncertain"のアコースティック・ギターとPatrik LundstromのVo.に北欧の空気を感じ、AleenaとPatrikのデュエットが実に良くはまっている。
 "Distant Voices"のテクニカルなDs.とポジティヴなエネルギーを感じるVo.のメロディーの対比、そして優しいKey.が今に生きるKaipaを感じる。
 "Otherworldly Brights"の後半のギターとハモンド・オルガンは正にKaipaサウンドの真髄!
 なお、不思議なジャケットは祖父尼さんの解説で気付いたがAlgarnas TragardのJan Ternaldであった。Webには興味深いアートが満載なので訪れてみると楽しいだろう。(http://www.flepotron.has.it/)。また、"Sonic Pearls"ではHasse Bruniussonが参加している。
 蛇足であるが、このCDに封入されていたInsideoutのカタログを見て、私は40枚以上持っている事に気付いた。Insideoutから何かプレゼントが欲しいくらいだ。(^^;

☆Kaipa / Mindrevolutions (Belle Antique MAR 051037) '05

 2年ぶりの最新作。人懐っこく優しいメロディーは健在。前作とメンバーは変わっておらず、The Flower Kingsとの差別化が出来なくてモヤモヤしているマニアをよそに(笑)、マイペースで安定した活動を行っている。
 シャープなイントロから暖かい曲調に変化しJonas Reingoldの優しいベースラインが印象的な"The Dodger"。まるでGrennsladeを思い起こさせるPatrik LundstromのVo.が良いのだなぁ。ちょっとハスキー&パワフルに感じられるようになったAleenaとPatrikのVo.が染み渡るバラード"Shadows of Time"はRoine Stoltの泣きのギターとHans Lundinのバッキングが冴え渡る。この作品では何と25分を超えるタイトル曲が収録されている。ワイルドでパワー溢れるインストのアグレッシヴな部分と暖かいメロディーが織りなす大作である。鄙びたオルガンアレンジとRoineのギターが絡むんで往年のファンも納得の"Last Free Indian"、実はアコースティック・ギターがとても美しく大のお気に入り。"Our Deepest Inner Shore"の優雅がアレンジはKaipaならでは。Jonasの歌うようなベースとAleenaの感情溢れる歌声は必聴だ。Morgan AgrenとJonasの軽快なバックのリズムが心地良い"Timebomb"は現在の音と伝統的な音が絶妙に解け合った素晴らしい曲だと思う。ラストを飾る暖かいHansのKey.とベースから導き出される"Remains of The Day"。中盤のサイケディックで力強いギターソロ、後半のドラマティックな曲がKaipaのまた違った面を垣間見たようで興味深かった。
 今回もお馴染みのジャケットのアートワークはAlgarnas TradgardのJan Ternald。カネゴンの冒険は続く。(^^;
 祖父尼さんの解説は凄く良いため、値段は高くなってしまうが輸入盤+帯付き&解説をお薦めする。なお。その解説にはKaipa 30周年記念スペシャル・ボックスが年末に準備されているという。これは楽しみだ。でも解説にPatrik Lundstrom (ex.Ritual)って書かれてあったけど、誤植ですよね?表ジャケ部のシールもPatrickと英語的に書かれていたし。Patrik受難作か!?(^^;


*Transatlanticはこちら

☆Par Lindh Project / Gothic Impressions (Crimsonic Label CLSCD 101) '94
 Roine StoltはMixing Engineerとして、また"Green Meadow Lands"のAcoustic Guitarとして参加。
 聴きどころはその"Green Meadow Lands"。初期Crimsonを彷彿させる叙情的なナンバーで幕開け、まどろむような曲でうっとりしてしまう。
 このアルバムは新宿Unionでかかっていて「何ですかこれ?」攻撃で入手した物で、知らない人2人も一緒にカウンターに持ってきたので一気に3枚売れてしまった。...これくらいのブツだったので当然最初きいたインパクトは凄かったのですが、今落ち着いてきいてみると素人くささがVo.部に見受けられたりして、プログレ・マニアが作ったアルバムって感じがする。次作「Rondo」に至ってはヤリすぎの印象がある。

☆V.A. / Vimus - Dokumentation Vol.1 (Foxtrot Records FOX CD-013) '94
 どこに入れようか迷ったけどココにしてみた。Foxtrotのサンプラー。
 VIMUSとはウプサラにあるミュージシャン組合のような組織。電話番号も載ってます。91年度再結成Kaipaの新曲(当時)が入っているので血眼になって探した人は多いのではないかな?平たく言って玉石混淆。Roine Stolt, Tomas Bordin, Lasse Krantz, Hasse BruniussonというTFK+SMM組でGentle Giantのとても淡泊(^_^;)でマニアックなカヴァー(10.)をやってます。なんでこの曲なんだろう・・・インストだから・・・?さすらいのSax奏者Ulf Wallanderもウプサラ系だったのか。哀愁のテナーサックスをユーモラスに奏でております(11.)。Roberto Aran Ensemble(13.)が一番脳天気で楽しかったです。ラテン音楽を演奏しているのに、どこか北欧の冷ややかな空気を感じられるのが興味深いです。(thanks to ゲヘホフさん&デボラさん)
収録曲は以下:
1.Kanslornas Orkester / Nar alla pojkarana har gatt
2.Anders Widmark / Giant Steps
3.Kaipa / Lantlat 1&2
4.Fools & Friends / Hearts on the line
5.Turning Trio / Gentle mind
6.Wennman / Ger dig allt
7.Annika Frolander Band / Men hej
8.Bucks Combo / Stagger Lee
9.Maggies Farm / Dromdans
10.Flumorkestern / Spooky Boogie
11.Ulf Wallander/ Le Heritage
12.Pelle Snusk / Ballhall
13.Roberto Aran Ensemble / Wanderoy
14. Good Morning Blues / I wannt to be loved 


☆Chance / Escape to Horizon (Musea FGBG 4327.AR)'00
 フレンチ・シンフォニックの2nd。Laurent Simonnetのプロジェクト・インスト作品。制作年月に3年以上も費やしているだけあって丁寧な作品で好感が持てる。但し、シンフォニック・マニア以外にはお薦めしない。このアルバムにRoine Stoltが2曲に参加しているらしい。"From Here to Infinity"できかれるギターはRoineか?はっきりとクレジットされていないのが残念。

☆Hagen / Corridors of Time (Angulara Records SKAN 8220.AR) '01
 Swedish Folklore / Modern Metal、Hagenのデヴュー作。これにKaipaのHans Lundinが参加し、しかもいきなりKaipaの"Visan I Sommaren"(英語タイトルで"A Summer Air")のカヴァーをトップに持ってきている。この"A Summer Air"は英詞をKevin Ficklingに頼んでいる。北欧古楽界の重鎮Anders RosenはベースのHans Rosenと兄弟だそうである。FolkとHard Rockを融合したバンドとしてはSkycladが有名であるが、こちらはVo.が北欧独特な滑らかさがより広い層にアピールする物と思われる。Per Nilssonのギターは時にテクニカルでありなかなかの力作。HRアレンジながらキーボードとギターのハーモニーが美しい"For Ulf"は実に良い。
 詳細は下記:
http://www.hagen.nu

☆Agents of Mercy / The Fading Ghosts of Twilight (Foxtrot Music FOX CD 029) '09
☆Agents of Mercy / Dramarama(Foxtrot Music FOX CD 030) '10

☆Agents of Mercy / The Black Forest (Foxtrot Music FOX CD 031) '11


☆3rd World Electric / Kilimanjaro Secret Brew (Reingold Records RRCD 001) '09

☆The Power of Two (Karmakanic & Agents of Mercy) / Live USA (Reingold Records RRCD 003) '10

 2009年、KarmakanicとAgents of Mercyの2バンドが一緒にアメリカツアーをした時のライブレコーディング作品。Zoltan Zoltan Cso:rsz(ds.)とKrister Jonsson(g.)が参加していないので、Jonas Reingold(b.)、Roine Stolt (g.)、Nad Sylvan (vo.key.)、Go:ran Edman (vo.)、Lalle Larsson (key.)、Nick D'Virgilio (ds.)の全員で二つのバンドを演奏し分けるという、変則編成。
曲目は以下:
The Fading Ghosts of Twilight (Agents of Mercy)
Heroes & Beacons
Jesus on The Barricades
Where Earth Meets The Sky (Karmakanic)
Do You Tango?
Lalles Solo
Eternally
Afterglow (Genesis)

Chance
Chance/ Escape to Horizon

Hagen/ Corridors of Time

Ritual

☆Ritual (Belle Antique BELLE 96270) '96
 Kaipaの作品できき直してみたら凄く良かったので、ついでにRitualをReviewしてみたりして。(^^; PatrikのVo.はKaipaで見られるような甘めの声とは異なって幾分細めの囁きとハードさが交錯した印象。北欧にしては珍しいからっとした印象で軽快なノリが痛快。出目はYesと思われるが、現在に生きるバンドとてEcholynに近いかなと個人的には思ったりして。冒頭からたたみかける"Wingspread"をきけばなおさらそう思って熱くなってしまうぞ。(^^; 素朴で牧歌的な"The Way of Things"は爽やかで良い。"Typhoons Decide"のリリカルな展開、ファンタジックでおもちゃ箱をひっくり返したような "Seasong for Moominpappa"、アコースティック楽器を巧みに用いた軽快な展開が見事な"You Can Never Tell"はかなり応援したいと思わせる音だ。なお、日本盤は伊藤政則の解説入り。そのことからして日本ではプログレ・メタル系で売ろうとして失敗したような印象がある。(^^; 日本盤ボーナス・トラックとして'95のOsloでのLive、"Vision Quest"を収録。

☆Did I Go Wrong (Ritual AB LOMCDS-1) '99
 2nd「Superb Birth」の先行シングル。1〜3は2ndからの曲、4は"Breathing (Demo 1997)"が収録されている。

☆Superb Birth (Ritual AB LOMCD-2) '99
        (InsideOutMusic/Tempus Fugit 6 93723 60832 7) '04

 ジャケットがあまりに惨め(ミジンコみたいだ)なので当時は結局入手せず、3rdでRitualに目覚めたところすっかり入手困難になっていたアルバム。最近InsideOutから再発された。多分殆ど注目されていない作品のため2枚持っている人はよっぽど変な人(オレか?)なので注記しておくが、オリジナルCDと再発CDは曲順が違うのだ。マニアは両方ゲットだ!(^^;
 なお、オリジナルCD盤はばばんこさんのご厚意によりいただきました。ありがとうございました。m(__)m


Ritual

Did I Go Wrong

Superb Birth

☆Think Like a Mountain (Tempus Fugit 6 93723 65602 1) '03
 Ritualの3rd。Tempus Fugitは彼ら自身のレーベルらしい。2ndのジャケットが余りにも酷かった印象があり買う気が失せていたため油断していたら入手が困難な状況になっていた。従って今回、きちんと3rdは新譜で買ったよ。(^^;
 いきなり冒頭の"What Are You Waiting for"からKingston Wallばりのアッパーなノリでカウンターパンチをくらってしまった。曲が進むにつれて最近のFive Fifteenの如くZep的精神に近い作品であることに気づいた。アコースティックな響きと時折見せるクリアなアラビア音階のサイケディックさが気持ちいい。これは素晴らしく感動的な内容。大穴だぜ旦那。


詳細は下記:
http://www.ritual.se