インターミッション

 セット換えの時間が30分ほど。大会場でこういうのを観るのは初めてだったのでじーっと観察していた。
 ローディーが7〜8mくらい上部にあるライトセットの上を歩いたり、ロープをスルスルと登っていったり、まるでサーカスのようだ。職人だなぁ。前回(といってもブートのビデオでしか観たことないけど)はスロープなど大掛かりだったRUSHのステージセットは、今回はいたってシンプル。4本のボルトとナット、そしてスクリーンと数台のアンプ。問題のウサギさんは!?



RUSH〜見ざる、聞かざる、言わざるツアー(うそ)〜

 暗転した途端にものすごい歓声が!見回すと、いつの間にか天井まで人がぎっしり詰まっているではないか!?欧米でのRUSHの知名度は日本の何倍もあるのだ。身をもって感じる。
 最初、ステージ前方は黒い巨大なカーテンが垂れ下がっている。それがスルスルと開くと、スクリーンには壮大な宇宙の映像。何が始まるのかと思いきや、「2001年、宇宙の旅」のテーマにのってモノリスよろしく、ボルトとナットがゆっくり飛来してきた(笑)。あまりのバカバカしさと荘厳さに大笑いしちゃったわよ。めでたく2つが結合すると、会場から大拍手が。おいおい、みんな、好きだねぇ。私も好きだ、このセンス。

 そして弾かれるように"Dreamline"のイントロが鳴り出した。うわわぁぁぁ本物だぁぁ!夢にまで見て、夢でも一度も体験できなかったRUSHのライブだぁぁ!思わず浮かんでしまった涙とぶっ飛んだ理性。頭の中が真っ白になった。わずかに残っている記憶と強く刻み込まれた感動を元にレポートしていく。
 まず、よく言われる音の良さ。これはアルバムやビデオですでに証明済み、なのだがいざ体験してみて本当に驚いた。下手すればCDよりいい音しているかも(特にドラム!)。低音も良く鳴っているのに音が割れずズンッとくる。バランスもほぼ完璧。
 スクリーンやバリライトを駆使した巨大なライティングシステムも見落とすわけにはいかない。このヴィジュアル効果は本当に素晴らしい。もしRUSHが日本で2回公演をすることになったら、どちらも行くこと。1回はミュージシャンと音に集中し、もう1回はヴィジュアル効果に集中するのだ。絵にも描けない美しさなので描きませんが(笑)、ライティングだけでオーディエンスがどよめく凄さなのだ。スクリーンに映し出される様様な映像の制作者の中には、長年彼らのアルバムのジャケットアートを手がけているHugh Symeも名を連ねている。

 2曲目はAlexのせわしいギターのフレーズから・・・"The Spirit Of Radio"! さすが定番曲、大盛りあがり。観客は歌いっぱなし。嬉しいなぁ(^-^) 。勿論、中間分のレゲエ部分はお約束の大騒ぎ!コレよコレがやりたかったのよ、と一人でビデオの前で拳を振り上げていた自分を思い出す。それにしても、なんて鮮やかなリズム展開!!それを笑ってやるなよ、こわいから。
 聴いたことあるんだけど・・・?あまりに意外な選曲ですぐに曲名を思い出せなかった。「SIGNALS」収録の軽快なロックナンバー"The Analog Kid"だ!ここのところ同アルバムからは"Subdevisions"しか演ってなかったので卒倒ものだった。だって大好きなんだもん。Geddyのハイトーンも伸びやか。あぁ幸せ。

 "Hello!"とここで挨拶MC。Geddyが煽ると観客も大騒ぎだ。何はしゃいでるんだ、このおじさんは?かわいいじゃないか(^_^;)。

 海外の音楽雑誌でもスコアに取り上げられていた"Cold Fire"は新曲ながらなかなかの人気。歌詞が他のRUSHの曲より親しみやすい内容だからかもしれない、と思うのは私だけ?いや、曲も良いのだが。サビのメインメロディをAlex、その上にGeddyがハーモニーを付けているようだったが、メインが聴こえなかったよ、パパ。ところで日本では信じがたいのだがAlexはとっても人気者。各曲のギターソロで必ず盛り上がっていた。
 時計の刻む音、といえば"Time Stand Still"。あ、スクリーンの映像が前回と違う。ダリ風に歪んだ時計や、色んな時計のフラクタル。プロモの使い回しより断然いい。短いMCを挟んで「COUNTERPARTS」きっての泣きの曲、"Nobody's Hero"。センチメンタルな映像がさらに感情を掻き立てる。まるで映画を見ているよう。
 私はRUSHをヒーロー視している。Neilが聞いたら笑うかもしれない。でも、彼らの歌詞や音楽が少なからず私の人生や考えに影響を与えていることは事実で、元気の元にもなれば弱気になったときの叱咤にもなる。彼らの行動は私にとってヒーロー、といっても過言ではないのだ。要は耽溺しないこと。CDでは仰々しいオーケストラアレンジ(これ、ちょっと苦手)のフェイドアウトで曲は終わるが、ステージではピンスポットに照らされたGeddyが静かに歌い上げて締めくくる。も〜〜〜〜っ、かっこい〜〜〜〜!!
 ファンキーな"Roll The Bones"で小躍りする。プロモにでてきたモヒカンのガイコツ君をはじめ、この曲はノリノリで楽しい。ラップ部分はテープで流しているかと思ったらドラムは生演奏。打ち込めば楽なのにそれでも叩くかNeil先生、職人なんだからぁ。そしてうって変わってダークな雰囲気の"Animate"へ。透き通るハイトーンヴォイスとヘヴィな音像との対照は、この曲のコンセプトを考えると面白い。「COUNTERPARTS」は特にだけど、RUSHは下手なヘヴィロックバンドよりよっぽどヘヴィな音を出すときがある。ツボを知っているんだ、きっと。歌詞に出てくる単語を世界各国の言葉に訳してコラージュしたものがスクリーンに映されていた。ありゃぁ、「文明する」なんて動詞は日本語にはないぞ(笑)。
 ここでまたMCが入る。珍しくAlexが仕切っていた。周りの観客の笑っている様子からすると、変なことを言っていたらしい。英語が分からなくて悔しい(と毎回海外に行って思ってる ^_^;)。プログラムの写真でもAlexのアブないキャラクターが伺える(*1)。
 プロモでは、RUSHにしてはいかにも「プロモらしい」ビデオで、やけに挑発的な印象だった"Stick It Out"。Iggy Popかと思ったぞ。ここでGeddyがFender Jazz Bassから、前回のツアーで使っていたWalの赤いベースに交換した。よりヘヴィ&ダークな音が欲しいときにWalを使っていた様子。おお、向こうでバンギングしている兄ちゃんが居るぞ!RUSHでバンギングするなんて自分だけだと思ってたよ、うれしい。
 「COUNTERPARTS」3連発"Double Agent"。日本では消防法の関係で見ることができないファイロシステムを初めて見た。思わず興奮だ。"Wilderness of mirrors・・・♪"で広がる光のリフレクション。引っかき回すように弾くAlexのギターがソロに突入すると、観客のテンションも上がり、それを煽るかのように炎が高く吹き出す。欲望も希望も燃やし尽くす地獄の業火のごとし。この曲の演出が今回のセットの中で一番ドラマティックで凝っていた。曲の半分以上を占める語りはGeddyがちゃんと歌っていたようだが、逆光でよく見えなかった。

(*1)「COUNTERPARTS」ツアーパンフより転載しました。(少々重め)