金石出(Kim SeokChul)/安淑善(An SookSun)

 最近山ごもりをして鍛えていると噂であったシャーマンの大家、金石出。今年来日予定であったが残念ながら中止。理由は定かではないが、歳を考えると仕方のないところである。もうヨボヨボで歩くのもやっとという事だが、演奏を始まるやいなや神が乗り移ったようなパフォーマンスで信じられない動きをするという。一度は彼の演奏を生で見たい。
 一方鋼の喉と言われているパンソリの大家、安淑善。彼女は最近来日公演を行い3時間に及ぶ圧巻の舞台は凄まじかったと聞いている。
 彼らの作品を簡単に追ってみた。


☆V.A. / Eurasian Echoes 1993 (Woongjin Media Corp. WJAC0378) '93
☆V.A. / Eurasian Echoes 1994 (Samsung Music WSCO-070CSS) '94

 日本側は板橋文夫/斎藤徹/沢井一恵、韓国側は安淑善/金石出/李光壽/李太白らが参加。1993年盤はピアノと韓国伝統楽器が美しく融合し雄大なLive演奏を奏でている。1994年盤は韓国/日本/モンゴルの伝統音楽を交えながらの演奏を繰り広げている。中でも韓国伝統音楽の"Sigimseh"は異様なテンションの高さであった。

☆金石出, 金正煕, 金有善(Kim YuSun), 金用擇(Kim YongTek), 金正国(Kim JongGuk), 金東烈(Kim DongYol), Kim YongJuk
                            / DongHae OGuKut (E&E Media SCO-058CSS) '95


 下記「東海岸 別神儀式」とほぼ同じメンバーによる録音。由緒有る金一族、狂乱のパフォーマンスが目に浮かぶようだ。実に凄まじい熱さ。圧倒的傑作。

☆金石出(Kim SeokChul) / East Wind (NopSaeBaRam) (E&E Media SCO-023CSS) '93
 韓国シャーマンの大家と言われる金石出の作品。怒濤のシンバルがどうしようもなく凄い!特に23分以上に及ぶ"KwoeGwoaRi KuWim"が壮絶。これは最終ステージと言っていいだろう。(^^; 解説は湯浅学。

☆金石出(Kim SeokChul) / Final Say (決定版 : GyeolJeongPan) (Samsung Music SCO-121CSS) '97
 韓国古典伝統音楽にJazzのサックス・プレーヤーが時折参加した画期的ミクスチャー作品。まさに決定版である。Third Ear BandやFaustきけるなら問題なくOK。スタッフは日本人を多く含み、アルト・サックスで梅津和時が参加。何か凄いぞ!


East Wind


Final Say
☆金石出, 金正煕(Kim JongHwi), 李太白(I TeBek), 板橋文夫, 斎藤徹, 沢井一恵 / Unicorn (無翼鳥)
                       (Woongjin Media Corp. WJAC0383) '93

 この作品も韓日混合の作品。板橋文夫(p)、斎藤徹(コントラバス)、沢井一恵(琴)に韓国の伝統音楽の大家達が絡む。テンションの高さというよりもバラエティで広い範囲で韓国よりの音のような気がする。「神命」と対をなす作品といった印象。「黒莖」同様、Cho SungMuによるジャケットはとても洒落ている。

☆金石出 他/ TongHeAn PyolShinKuk (JVC SRCD-1121) '93
 '91/12/5釜山での録音。タイトルは「東海岸 別神儀式」ということにあるであろうか?このCDに収録されている"MolKutSaMol"の怒濤のシンバルには心臓が高鳴る。これは本当に凄まじい演奏で世界屈指のテンションであることを確信する名演である。なお、'93の歴史読本ワールドの世界の神話伝説特集で取り上げられている江陵市の端午祭は、4日間にわたる大規模な別神祭儀で数人のムーダン(シャーマン)と楽士たちは交代しながら、朝から夕刻まで延々と歌い舞い楽器を打ち鳴らすらしい。その際、別神クッを務めるのはKim一族だそうで、そう言えばKim氏がこの録音には6人参加している...。


無翼鳥


東海岸 別神儀式

☆安淑善 / Knowing The Sound (知音) (Nices SCO-021CSS) '93
 韓国を代表する語り芸、パンソリ。その大家でもある安淑善のソロ作品。インパクトとしては金石出に譲るが、強靱で圧倒的存在感のある声が他の追随を許さない。これっていわゆる究極?

☆安淑善, 金石出, 李光壽(Lee KwangSoo), 斎藤徹 / Shin Myong (神命) (Cantabile SRCD-1088) '93
 大家が集まって伝統音楽をやりながらもアヴァンギャルドな印象を持つ作品。特に"HoChuk SanJo"は何かに取り憑かれそうな演奏。イッテいる。必聴と断言したい。(^^; なお、これも湯浅学が解説を書いている。


知音


神命

☆安淑善 / Jeok Byuk Ga (E&E Media SCO-156AHN) '98

 3枚組BOX。現地では5枚組もあったが、店員さんは残念ながら全く英語が分からず、その5枚組はBestなのか新作なのか不明であったのでこの3枚組の方を選んでみた。幸いなことに「知音」と重なるものは無かった。でも正直言って題名替わっていても区別はつかないのであるが。(^^;;; 分厚い解説は注釈付であり、韓国人にとっても解釈が難しいのかな?いずれにせよ、人生の目標としてこのパンソリの和訳には挑戦したいと考えている。「Jeok Byuk Ga(赤壁歌)」はSam-Kuk Jiがオリジナルで中国の歴史小説だそうである。相変わらず安淑善は囃子との息がぴったりで至極気持ちがいい。これをききながらゆっくりと過ごすのは贅沢の極みかも?蛇足であるが、'01/7に安淑善は来日した。行くことが出来ず残念であった。

*パンソリとは...
 パンソリは朝鮮後期の庶民文化を象徴する民間芸能であったが、次第に芸術様式として発展。一人の声楽人が鼓手のプク(小太鼓)の演奏に合わせソリ(唱)、アリニ(独白)、パルリム(身振り)を通して森羅万象の変化と登場人物たちの多様な性格を描く劇的音楽である。また、鼓手と観客のチュイムセ(演奏途中"うん"、"いいぞ"、"よし"等の言葉で強弱や興を助ける助興詞)が音楽の流れと雰囲気に多くの影響を与える。