マリア観音
「Too Much」とはこのことだ。聞け!唯一無二の情念プログレッシヴ歌謡!
バンドのメンバーと面識があるわけではない私が、以下のような紹介文を書いてしまうと、「怖い」と言って引いてしまう人もいるだろう。多少想像も入っているが、基本的に見たままを書いている。音楽自体はハードロックの一種になるだろう。それが重要ではなく、問題は音楽に対する姿勢だ。
初めてマリア観音のライヴを見たときは、ア然としてしまった。飛び跳ねるヴォーカリスト。絶叫するスキンヘッドのキーボーディスト。落ち武者のようなドラマー。首がもげるのではないかと思うほど暴れるベーシスト。私の記憶にあったのは、やくざのような風貌のにーちゃんが毛皮を着てクネクネ熱唱する「イカ天」の映像・・・。そのギャップが凄かった。なんじゃこりゃ。やばい、危険だ。しかし目を背けられない。耳をふさぐこともできない。こけ脅かしでこんなプロレスのようなステージをやっているのではない。押さえきれない激情を体を張って表現している。真剣だ。見なければいけないと直感した。
半分怖い物見たさもあっただろうが、それから機会がある度にマリア観音のライブに足を運んだ。暴れるところは暴れ、キメのところはビシッと決まる。この快感はHMファンなら分かってくれると思う。丁度「犬死に」が出る前の時期だったので、かなり形が固まってきた"漆黒界" や"刺生活"を熱いまま味わうことができた。耳障りの良い美しい曲というのは巷にあふれている。マリア観音の音楽は耳障りは良くないが、美しいと思うときがある。
詩の真意はどうとでもとれるので追求しない。ここはアンサンブルの奇跡的なバランスと木幡の絶唱に耳は集中する。これはどう形容したらよいのか・・・。日野日出志の漫画にある一種の陶酔感。金田一耕助シリーズ初期の根底に横たわる血の恩讐。三島由紀夫の「仮面の告白」にも似たグロテスクさを感じるくらいの冷徹な視線。満開の桜の木の下には死体が埋まっている、なんて平然と言ってしまう私たち。そう、これは日本だ。日本人がコテコテと西洋文化を塗り重ね、化けようとしても隠しきれなかった精神世界の一部だ。だからコピーが上手くなった90年代の音よりは、ドグサレた70年代の音に近い。インディーズと気取った呼び方よりアングラの方がふさわしい。私は彼らのライブで「今は本当に21世紀を間近に控えたときなんだろうか?」と錯覚する場面に何度かであった。
下手な英語を用いず日本語の歌詞にこだわりを持っているのも素敵だ。敢えて言うなら、まだネチネチイジイジしていたナゴム時代の大槻ケンヂに近いものがある。
'96年5月27日。いつものようにライブハウス。席についてチラシをパラパラ見ていると信じられない知らせが入っていた。ベーシストの宮脇が自殺したという。最初は「こんな書き方してるけど、脱退しただけなんじゃないの?」と思っていたが、メンバーと親しい人から後日話を聞くと、本当だったという。
その後、雑誌FOOL'S MATEのインタで木幡自身が話しているのを読むと、まるで新興宗教の洗脳合宿のようだと思った。それは、世間から隔絶された場所に閉じこめ「お前はダメだ!ダメだ!救われたかったら信じるのだ!」と始終(寝る時間も与えず)怒鳴る、といったようなものだ。バンドの私生活までは知らないので勝手に想像してみる。
リーダーの木幡は頭の中で欲しい音というのが鳴ってる人だ。が、他のメンバーには伝わらないし、メンバーもついてこない。スタジオに入るたび同じ事の繰り返しなら怒鳴りたくもなるだろう。しかもマリア観音のリハーサルは本番同様ハードなものだと聞く。疲れた体に怒号。密室。そのうち「バンドが全て」と錯覚し出そうものなら、もう新興宗教の苦行である。木幡の要求が高度になるにつれ、自分を卑下し宮脇は「オレは役に立っていない」と命を絶ったという。この軽薄な90年代に信じられるか?普通なら「たかがバンドで死ぬなんて」と思う。私も思った。それでも「あり得るかもしれない」と思わせる力がこのバンドにはある。
ここでバンドは終わったわけでないが、ペースが乱れたことは確か。後任のベーシストに河崎が加入したまでは良かったが、Key.の小森が失踪したと聞いたときは痛かった。なぜならマリア観音の倒錯的な美しさを演出し、曲をリードしていたのが彼だったからだ。木幡のメンバー不信も回復せず、ドラマーの平野の代わりに、元サバート・ブレイズの岡野太(D)をゲストに迎えライブを行ったこともあった。崩壊していくアンサンブルを見ているのはさすがに苦痛で、私はマリア観音のライブから遠ざかっていった。
現在は、失踪した小森も戻り(う〜む・・・)、木幡(Vo.etc)+小森(Key)+河崎(B.CB)+平野(Dr)の編成でライブを行っている。小森復帰後のライブも1度見たが、危ないほど見事な返り咲きだった。最近ではかつての「キメ」が戻ってきたとも噂を聞くので、ぜひまた見に行きたい。
(2002.01.06追記)
最近エレクト・レコード新宿店が移転したのを期に久々にマリア観音のアルバムを見てきた。相変わらずCD-R盤が乱発されていたが、個人的には小森がいるマリア観音に興味がある。(しぶ)
詳細は:http://www33.ocn.ne.jp/~mariakannon/参考資料:
marquee 62号
FOOL' S MATE 1997 JUNE No188
例によって木幡独唱の会、の面持ちですが、不思議な静けさがあり、私は結構気に入ってます。2.での、コントラバスのボウイングと木幡の歌の取り合わせはなかなか美しいです。
☆LIVE 1998 (CREAR SPOT CD95-14) '98
前作のライブと違い、現編成でのライブ。これはうっとうしい。一番のインパクトは、インナーの木幡氏の「やまいだれ」なイラストでしょう(^_^;)。"漆黒界"も崩壊寸前でやっぱりコアなファン向きです。
☆懺悔の釣場 (ERECT RECORD ER009) '99
木幡ソロ第2弾。
☆開き盲目 (ERECT RECORD ER013) '99
待望の現メンバーのスタジオ録音!「犬死に」の頃のバンド・アンサンブルを取り戻しつつあります。「髑髏」ほど密室的な音ではなく、意外とあっさり聴けます。効果的なSE、"絶滅"
や"死神の詩"の軽快な(?)リズムは好感が持てます。うん、いいっすよ"絶滅"は。これぞプログレッシヴ歌謡!(歌詞が短くなってますね。)
いつものように日本語にこだわった歌詞ですが、いつも多少意味不明な言葉遣いでも何となく言わんとしてる光景が浮かんでくるのだけど、それさえ不可能だった曲がいくつかあったこと。勿論音楽と共にどのような語調で歌っているかを聴けば、その感情がいかなるものかわかりますが、その点が少々残念でした。
☆進化の坩堝 (ERO21:CD-R)
収録曲は下記の通り。
進化の坩堝
鍵子の詩
日和見主義的集団自殺
背徳の扉
切り疵だらけで
人質
刑場跡
晴天白日
なお、紙切れ帯に付いていた曲に「犬死」が2曲目にクレジットされていたが収録されていなかった。
2000年12月21日の高円寺ショウボートでのLive音源。やはりマリア観音には小森が重要であると改めて実感。「日和見主義的集団自殺」が圧倒的に凄まじい。「チクタクチクタクチクタク死人の腕時計」の叫びが頭から離れない。「刑場跡」も危険なまでに美しく感じた。「晴天白日」は崩壊ギリギリのところで曲として成り立っている印象。完全に閉じている音である。
☆実況録怨 (ER019:CD-R)
収録曲は下記の通り。
刑場跡
青天白日
日和見主義的集団自殺
鍵子の詩
2000年9月27日の高円寺ショウボートでのLive音源。かなり前に渋谷店で入手していたが現在では廃盤のようだ。基本的内容は12月21日と重なっているが「青天白日」「鍵子の詩」は12年21日のLiveより曲としてまとまっているように思う。
なお、紙切れ帯に付いていた記述は全五曲となっているが全四曲である。
☆小森雅彰ソロ(ゲスト・木幡東介)1999/5/24 東高円寺文化フォーラム
かなり久々に観るマリ観のメンバーでありました。小森さん、痩せましたね。
この日は2部構成で、前半は完全小森ソロ。後半は小森さんを中心としたゲストとのインプロもの。当初ドラムの平野さんも参加する予定でしたがケガの為、急遽木幡さんがベースとドラムを兼任することになりました。
アナログシンセのノイズとピアノの弦を直接弾く即興物でスタート。ピアノに乗っかって和音(?)を弾くスタイルは健在でしたね。しかし前半が「ドシャン・グシャン・ビィィィィ〜〜〜」でずっと続いてしまうと辛いな、と思っていたら打って変わって静かなアルペジオ。すごいチープな打ち込み(^_^;)をバックにしたオルガンワーク。緩急をわきまえたステージ展開でした。約1時間で終了。
前半のプレイで印象深かったのは「こう来れば、次はこういう音でしょ」という予想をことごとく裏切られるコード進行の特異さ。マリ観の曲の中では見えにくかったこのセンスを楽しめただけでも来たかいがありました。あとハモンド弾き倒しの図は、Uriah
Heepなど好きな方には爽快な演奏だったと思います。
後半の小森さんのプレイは、やはり流暢なメロディが出る場面は少なくて、執拗に和音を重ねて凄みを出す、と言いますか、そんな感じです。木幡さんのドラムは、以前観たときよりフレーズに幅があってそこそこ楽しめました。ウネウネしたベースの方が個人的には面白かったです。小曲の"びっこ"以外はあまり駆け引きというものはなく、結局「ドラムソロ+インプロ物」という構図になっていました。
こう書いてると、とても平和そうに進行してるように読めますが、やはりこの人達ですから演奏途中に「倒れるんじゃないか」とハラハラしながら観ていました。小森さんに至っては、キーボードの鍵盤を割ってしまいました(^_^;)。