CD CASE TOWER

【CDソフトケース】発売元:FLASH DISC RANCH

収納効率なんと3倍!なんだって。駅前の怪しげなおじさんから買ってみたんだけど、どうかな?」
「FLASH DISC RANCHって聞いたことないわ」
「下北沢に同じ名前の、LPしか売ってないお店があるけど、関係ないんじゃない?これ、CD用だし。」

 主人がソフトプラスチックの袋を大量に買い込んできた。これを使うことによってCDを置くスペースが3分の1になるという。ろくに聴きもしないCDに埋もれて暮らしていた私たち。これでやっと念願のソファを置くことが出来るのかしら?奈央子はそんな淡い期待を抱いた。

 その日から主人は取り憑かれたように、CDとスリーブをCDソフトケースに入れ替え続けていた。もう200枚程入れ替えたらしい。ハウスダストのアレルギーを持っている彼は、CDケースにたまった埃にまみれ、くしゃみをしながら
「入れ替えてるとあまり聞かなくなったCDを発掘できるし、なかなか新鮮だよ。やめられないねー。」
と、嬉しそうだった。
(手順はこんな感じ)

「でも・・・」

 奈央子は納得いかなかった。 
 最近は主人のCDの購入スピードが落ち、CDが占めるスペースは減っているはずなのに。布団を敷くのもなんだかやっとだわ。どうして狭くなったのかしら?


■■■

 その夜、事件が起きた。
 就寝時、奈央子が豪快に寝返りを打ったとき、ものすごい音と共に大量のモノが落ちてきた。
「きゃーっ、な、何?地震?」
「奈央子、だ、大丈夫か?」
「ちょっと!なんなの、これ?」

 空のCDケースだった。

 どうしてこんな簡単なことに気がつかったのかしら?
CDの収納スペースは確かに小さくなったけど、元々のケースが縮むわけじゃない。回収業者に出してトイレットペーパーをもらえるものでもない。
そのうち捨てよう、と思っているうちに、こんなにケースがたまっていたんだわ。


マッチ箱と比較してみました


「こんなに積み上げたって、ソファにもベッドにもならないじゃない!もーいや!邪魔なのよ!!」
「だって、ウニオンに売りに行くときにケースがないと困るじゃないか。」
「だったらすぐに売りに行きなさいよ!!今すぐ!キーッ」

 怒り狂った奈央子は主人にかかと落としをくらわせ、CDケースと一緒に外に放りだした。


「フーッ、やっとスッキリしたわ。」
 奈央子はそのまま深い眠りについた。


■■■

 新聞配達の少年に助けられ、ようやく家の中に戻れた壱彦は、妻の怒りを静めるためにウニオンへ売りに行くCDを選別していた。彼女はCDケースをすぐに撤去できなければ、来年のNEARfestに連れて行けとまで言いだした。それはいくらなんでも無理である。テロもこわい。どうしてこんな日に限って燃えないゴミの集配が休みなんだろう・・・。

「あ!」

 ボーっとしていた壱彦はCDが入ったCDソフトケースを落としてしまった。そしてケースの中身を観て衝撃を受けた。


割れてます(矢印)でも再生できました。

 もしかしたら。
 駅前でこのソフトケースを売っていたのは、下北沢のFLASH DISC RANCHの店員だったのかもしれない。このCDの収納方式はまるでLPのようではないか。しかしCDをLPほど大事に取り扱う人間は少ない。LPにこだわるFLASH DISC RANCHは遠回しに、ジワジワとCD破壊作線を進めているのではないかと、壱彦はありもしない妄想に逃避してしまうのだった。

(えーと、セミフィクションとしておきます。そんなものあるかどうか知らないけど。)